マーティンギター保管マニュアル
この度はマーティンギターを手に取って頂き、誠にありがとうございます。
1833年の創業以来、世界中のアーティストに愛用され続けているマーティンギターは「アコースティックギターの歴史」と言ってもよいほどの伝統をもち、卓越した製作技術を今に伝えています。自然材の良さを巧みに活かしたひとつひとつのギターはそれぞれが微妙に異なっており、あなたの手に渡ったものは世界中にひとつしかないものです。
ご使用になる前に、このマーティンギター保管マニュアルを必ずお読みいただき、保管と取り扱いの正しい方法をご理解ください。どんなに素晴らしいギターでも湿度管理もなく雑な取り扱いをしたり、アフターケアを怠ったりするとベストなコンディションを保つことはできません。美しいマーティンサウンドを楽しむためにはギターへの思いやりが大切です。
ギターの湿度管理
湿度の管理はあらゆる楽器にとって非常に大切なことであり、常に美しい音色を楽しむため、ひいては愛用のギターを故障させないため、正しくおこなうことが必要です。ギターが正しい状態にあれば、ギターに対する誤った考えや、リペアが必要となる問題も発生しません。ここで解説する湿度管理は、マーティン社が示すギターと湿度に対する指針です。
1. マーティン社の正しい基準を愛用のギターに応用しよう
湿度がギターに与える影響を充分に理解することは、ギタープレイヤーにとって非常に大切なことです。高品質のギターほどデリケートであり、マーティン社ではギターを扱う全ての従業員に湿度を安全なレベルで維持するよう呼び掛けています。ギターは湿度の急激な上昇や下落に非常に敏感であり、湿度の管理こそがギター管理の第一歩と言ってもよいでしょう。多くのギターメーカーは湿度管理について幅広い知識を持っており、最良の環境の中で製作され、出荷されていきます。よってプレイヤーもメーカーによる湿度に対する基準を愛用のギターに応用すれば、理想の状態を保つことが可能でしょう。
2. ギターの湿度管理はプレイヤー自身が行なうべきこと
湿度の管理はあらゆる楽器に必要なことです。ギターの湿度管理はプレイヤー自身がおこなうべきことで、万一の故障でも、それが製造中の問題かプレイヤーの管理上の問題かは、専門家が見ればたちどころに判別されることでしょう。
木材は年々貴重品になり、代替品はなく、ひとつひとつのギターは大切に扱わなければなりません。近年、注意不足などにより損傷を受けたギターを多く見るようになりました。ギターのためにも、また木材資源の維持という観点からも湿度の管理に注意を払う必要があります。予算が許すのであれば、加湿・除湿機能を完備したアコースティックギター専門の保管ルームを持つことが理想です。または、季節によって除湿器と加湿器を使い分けるのもよい方法でしょう。
3. 相対湿度とは何か?
人によっては部屋いっぱいに「水」が注がれている状態を湿度(≒相対湿度)100%と勘違いしがちです。空気は「水蒸気」という形ですでに水分を保有しており、0%の場合を除きあらゆる湿度において空気は水分を保有しています。相対湿度100%というのは部屋の空気に可能な限りの水分を含んだ状態のことを指します。
また、暖かい空気は冷たい空気より多くの水分を含むことが可能です。これは、部屋を暖めることで水分量が増すというわけではなく、保有できる量が増すということです。もし相対湿度を一定に維持するのであれば、室温が上がる場合は水分を増やし、下がる場合は水分を減らす必要があるということです。
ギターに関して言えば室内の相対湿度を50%に維持していれば割れが発生することはないでしょう。
相対湿度は図にして説明すると簡単です。たとえば1リットルの容器に500mリットルの水を注ぐとします。保有量は全体の半分で50%の状態です。仮に500mリットルの容器に500mリットルの水を注げば満杯となり保有量は100%の状態になります。室温と相対湿度の関係は以上で説明できます。
室温が異なる場合というのは、同じ水の保有量でも容器の大きさだけが変わるということです。つまり室温15℃、相対湿度100%の部屋は500mリットルの容器に水が満杯の状態とほぼ同じであり、室温20℃、相対湿度50%の部屋は1リットルの容器に水が半分入っている、そして室温25℃、相対湿度25%の部屋は2リットルの容器に水が1/4入っているのとそれぞれ同じ状態なのです。
室温の変化によって水分が増減するのではなく、相対湿度が室温とともに変化するのです。
4. 相対湿度が木材に与える影響は?
全ての有機物や多孔性物質は「温度」と「湿度」という両面において、物質を取り巻く空気と均一になろうとします。木材ももちろん同様で、取り巻く環境と均一になろうとします。乾燥した環境にあれば木材も乾燥し、湿度が高い環境であれば木材は潤います。さらに言えば、木材は水分を含めば膨張し、水分を失えば逆に縮みます。これは木材の物理的特徴で、乾燥した時期のドアは容易に開くのに対し、蒸し暑い時期にドアが軋むことや開きにくくなるという現象はわかりやすい例でしょう。
5. 適度な湿度とは?
ギターのような木製品の保存に最適であると考えられているのが相対湿度50%です。興味深いことに人間にとっても湿度50%前後が最も快適であると言われています。しかし国やその地域によっては、もともとの環境が快適な湿度から外れていることもあります。例えばアメリカで言えば、シアトルは平均的に湿度が高く、逆にフェニックスやコロラドは低く、ミネソタは夏に高く冬に低いのです。室内の空気とはもともと外気だったもので、これをヒーターやエアコンによって温度を変えています。室温が変わるということは相対湿度も変化します。この変化の良し悪しは室内の湿度を50%に維持できるかどうかで決まります。湿度は加湿器で上げることや、除湿器で下げることもできます。
ちなみにエアコンは事実上、大きな除湿器です。蒸し暑い夏には室内でエアコンを使用するでしょう。これは何も気にせず夏になればずっと室内を除湿しているということですが、これはとても良いことでしょう。地域によってはもっと除湿が必要であり、乾燥剤なども除湿として有効な手段になります。
6. 木材の乾燥処理とマーティンの工場で保たれている湿度と温度とは?
ギターに使用される木材は、製造に入る前に特別な乾燥処理をおこないます。マーティン社では、まず木材を12%〜15%の湿度で乾燥させておきます。その後、特殊な窯の中で6%〜8%までゆっくりと下げます。そして環境が維持された工場へと運ばれていきます。そこで木材は製造時の8%という湿度に適応していくのです。ただしトップ材などに用いられるスプルースの一部は8%の湿度に適応した状態で業者から到着するため、前述の工程とは異なります。スプルースのような材は非常に軽量かつ柔らかいので、比較的短い期間で乾燥するのです。
長年の経験からギターメーカーは相対湿度に関して統一の結論に達しました。マーティン社は工場内の室温を22.2℃、湿度50%に維持しています。この環境をギターが置かれる室内で維持することができれば、工場内とほぼ同様の安定した状態を保つことが可能でしょう。
湿度管理における主な目標は、ギターの損傷を防ぐことです。しかし損傷が発生する以前にギターは幾段階もの変化を経ているのです。例えばギターが乾燥しすぎて割れが起こったとします。それはある時点でそのギターが完全な状態でなくなり、割れが生じたことを意味します。しかし実際には徐々に乾燥し、ゆっくりと木材が縮み、だんだんとトップ材が落ち込み、最後に割れが入るのです。
また、それに対して極度の湿気にさらされると膨張するという変化が起こります。膨張が限界を超えた場合は、継ぎ目が離れ、ブリッジがはがれはじめ、弦高が高くなるなどの現象が発生します。
ポイントとして、ギターは取り巻く環境が適切な状態でなくなるといくつかの兆候を示すものであり、その内容をしっかり把握できるようになれば損傷を食い止めることが可能です。ギターに割れが生じていないからといって、その環境が確実に良いものであるということではありません。危険ともいえるレベルの乾燥した室内でギターを演奏しているプレイヤーを多く見受けます。もし愛用ギターを演奏しやすい状態のまま維持したいのであれば、湿度をうまく管理することによって、その状態を維持することが可能です。
7. 室内で湿度を計るには?
湿度を計るためには、湿度計が必要です。湿度計の値段には差があり、一般的に安価な物は正確さに欠けることもあります。広い室内には、専門的な湿度計測器が適しているでしょう。
8. 湿度変化がギターに与える典型的な影響
| 相対湿度 | ギターへの影響 |
|---|---|
| 60%以上 | 湿度が高すぎるのも有害になり得ます。典型的な兆候は、フレットや弦の変色(さび)、ペグのニッケル、クローム、もしくは金メッキのくすみや腐食、トップ材他の木部分の膨張、高い弦高、ライニングやブレーシング、ブリッジのはがれなどです。 |
| 50% | 室内のギターは良い状態を保ちます。 |
| 40% | フレットの縁が突き出てきはじめます。指板がネックポケットよりも収縮し12または14フレットからサウンドホールの間に小さな割れが生じることがあります。 |
| 35% | トップ材が縮み始めます。トップ材が波打ったように見えることがあります。フレットの突き出具合がより顕著になります。仮にギターショップの店内がこの湿度だった場合でも、入荷したばかりの楽器はケースから出されて間もないのでその兆候が発見されないでしょう。 |
| 30% | ギターに割れが出てはじめます。割れが生じていなくても、かなりの水分が失われておりトップ材も落ち込んできます。低い弦高によるビビリ音をなくすため、サドルを高くする必要がでてきます。 |
| 25% | 多くのギターに割れが生じます。ほとんどの場合でフレットの縁を削る必要がでてきます。多くのプレイヤーはこの段階で問題が起きたと認識し、販売店やリペアショップに連絡をしてくるようになります。 |
9. 保管と運搬について
ギターを保管または移動するときは、弦をゆるめて必ず純正のハードケースに入れてください。またケースに入れてあっても、取り扱いには細心の注意を払い、ケースに座ることや、大きな衝撃を与えることは避けてください。また除湿剤や除湿器を用いて、ケース内の湿度を整える際には、過剰に除湿されないようにご注意ください。
車や飛行機、列車などで運搬するような場合には、トランクや荷物室は避けて座席などを利用し、出来る限り手元に置いておくことをお勧めします。特に、車中に長時間放置されますと、極端な高温・多湿または低温・乾燥の状態となり、ギターにとっては最悪の環境にさらされることになってしまいます。また運搬時にギターに振動を与えることも避けてください。
10. 化学製品や薬剤からの保護
マーティンギターはほとんどが自然材で出来ています。したがって化学製品や薬剤、またそれらから発生するガスには十分に注意を払ってください。特に、多くのマーティンギターのボディやネックの表面は、音への影響を考慮してラッカーが薄く均一に塗られていますので、一層の配慮が必要です。
また、ビニールなどの合成樹脂類、合成ゴム類などは特に要注意です。ギタースタンドのゴムの部分やカポタストのゴム、化学繊維のフェルトなども、長時間接触していると塗装面を侵すことがありますのでご注意ください。あわせて化学繊維の衣類にもご注意ください。
ギターのコンディション
1. もしもギターの調子が変化したら
マーティンギターに用いられている木材は、長時間にわたる自然乾燥や充分なシーズニングを施されていますので、大きな狂いはほとんど発生しません。しかし高温多湿または寒冷かつ非常に乾燥した状況下、急激な温度・湿度変化の中ではボディやネックなどにも変化が生じることは十分に考えられます。常にギターのコンディションに注意を払い、万一変化が生じた場合には、お近くのマーティンギター取り扱い楽器店にご相談ください。
2. アクション(弦高)について
弦高はプレイヤーの演奏スタイルや弦の種類など、究極的に言えば好みによって最適という基準を定めにくい部分です。一般的に弦高が高ければ音のパワーは増加しますが、弾きにくくなります。逆に弦高が低ければ演奏はしやすいですが、パワーは低下しビリつきの原因にもなります。
マーティンギターは出荷時に適正な弦高基準にしたがって調整していますが、お気に召さない場合はマーティンギター取り扱い楽器店を経由して弦高調整を承ります。(ユーザー実費負担)
3. ブリッジ、フレット、ピックガードなどの交換修理
ギター各部を交換修理した場合、元のサイズよりわずかに大きいものになる場合があります。
4. ネックコンディション
マーティンギターのネックには単純な鉄芯を埋め込んだ「スクエアロッドネックモデル(SQモデル)」と、ネックの反りをある程度調整可能な「アジャスタブルロッドネックモデル(AJモデル)」の2タイプが存在します。SQモデルは反りの調整は出来ませんが、昔ながらの製作方法であり、欠点ではありません。非常に高い精度を求められる為、加工にも多くの時間が費やされます。また、ネックの素材であるハードウッドの選定には、充分な配慮をもってのぞんでいますので、長期間に渡って安定したネックコンディションをお約束します。念のため演奏後は弦がたるむくらいまで弦をゆるめてネックに大きな負担がかからないようにしておけば安心です。
通常、弦を張った状態での若干の順反りについては、弦高が適正であれば全く問題はありません。万一極端なネック反りが発生した場合には(SQモデル、AJモデル問わず)早めにお近くのマーティンギター取り扱い楽器店にご相談ください。くれぐれもご自身で調整されることは避けてください。
5. クラック
マーティンギターの多くはラッカー塗装で仕上げられています。良質な音をごく自然に発生させるため、ボディに負荷をかけないよう、塗装は伝統的な手法によって薄く均一に施されています。その為、塗膜と木材の収縮率の違いから、時としてクラックと呼ばれる塗装面のヒビが発生することがあります。これは、ラッカー塗料などを採用した楽器に見られる現象で、ギターそのものに対する悪影響はまったくありません。また、発生状況はそれぞれのギターごとに異なり、クラックが発生しない場合もあり、いわばギターの個性とも言うべきものです。
また、D-45をはじめとするシェル材のパーフリングなどを持つモデルは、木材とパール材の収縮率の違いから、多少の隙間ができますが、これは自然の素材を用いる以上やむを得なく起こりうる現象です。
メンテナンスとリペア
このマニュアルでお伝えした各項目を守ってご使用いただければ、あなたのマーティンギターは充分な能力を発揮してくれるはずです。ただし、再三述べてきましたように、ギターの主要材は天然の「木」であることから、コンディションの変化が全くないとは言いきれません。したがいまして、なんらかの変調が感じられましたら、無理にご自身で直そうとせず、お早めにお近くのマーティンギター取り扱い楽器店に修理や調整をご依頼ください。また、良いコンディションをたもっていても、長い時間を経ている場合は一度、点検などを受けられることをお薦めします。
そして...
ギターの取り扱いや手入れは、丁寧に越したことはありません。また演奏される上では常に正しいピッキングを心がけるようおすすめします。誤ったピッキングを続けていると、レスポンスやトーンのクオリティが低下し、充分な音が出せないギターになりかねません。正しい奏法でしっかり弾き込めば、それに充分応える能力を秘めたギターです。あなた自身の手でそのマーティンギターを本当の銘器に育ててください。
演奏後には
演奏を楽しんだ後には、必ず各部分の汚れを拭き取っておく習慣をつけてください。ペグや弦、ネックやボディなど、体が触れる所は特に入念に。常にギターを美しくしておくことがベストなコンディションを保つ秘訣です。
※ギターのお手入れには、マーティン純正のクロスとポリッシュをご使用されるといいでしょう。
弦の交換
どんなに質の良い弦であっても、安定した音を維持出来るのは、演奏時間に換算して延べ24時間程度と言われています。常にベストな音で演奏するためには、できるだけ早めに弦を交換することをお薦めします。
また弦の交換は一度の機会に6本すべてを交換するほうが、音のバランス面から言ってもベターです。なお、特別な場合を除いてそれぞれのギターに適した弦をお使いください。例えば、ドレッドノートサイズのギターにコンパウンドゲージを用いることや、000サイズのギターにヘビーゲージを用いることは好ましい選択ではありません。
- ※マーティンギターにはマーティン弦をお勧めします。
- ※予告なくパッケージデザインが変更になる場合があります。
- ※弦を交換する際、切れた場合を除いて必ず緩めた状態で行ってください。
- ※どんなギターでも弾き方によってはビリつきが発生します。
- ※弦のテンションによってビリつきが発生する場合があります。
弦交換の手順
ブリッジ側
① ブリッジピンを抜き、弦を取り外します。ピンを抜く際はペンチやニッパーなどを使用せず、専用のピン抜きを使用するか、サウンドホールから手を入れピンの下から押し上げるように取り外します。
② 弦を通す前に、ボールエンド付近を軽く曲げておくことでブリッジ裏にあたる木部、弦が引っ掛かる部分の劣化を減らすことができます。
③ 弦をブリッジの穴に入れ、ブリッジピンを挿しこみます。ブリッジピンを挿しこんだ際、弦を軽く引っ張ることで、ブリッジピンとギター本体に弦のボールエンドが引っ掛かり、弦が固定されます。
ヘッド側 - ソリッドヘッドの場合
ヘッド側 - スロッテッドヘッドの場合


